見えてきたテレワークの課題、スムーズな導入に向けた解決策とは
2020年初頭から広がったテレワーク普及の第一波が一旦の落ち着きを見せています。しかし、この波を受け身で迎えてしまった企業も多く、早々にテレワークを導入した企業ではさまざまな課題が浮き彫りになっています。
この記事では、主な課題とその解決策をご紹介します。これからテレワークの運用を考えている企業は、本記事で解説する課題を参考にしながら失敗を未然に防ぎ、スムーズな導入を図るための参考にしてください。
目次
情報セキュリティの課題と解決策
テレワークにおける情報セキュリティ対策は「ルール」「人」「技術」が三位一体となった対策が必要であると、総務省のガイドライン『テレワークセキュリティガイドライン 第4版』(PDF)で提示されています。テレワーク導入に際して、セキュリティを課題としている場合は、このガイドラインを参考に3つの要素を検討してみることをお勧めします。
1. 「ルール」を策定しましょう
パソコンやタブレット、スマートフォンなどの情報端末はオフィスワークにおいて不可欠な存在です。オフィスワークでは社内での利用が主でしたが、テレワークを導入すると社外利用が標準になることから、機器取り扱いのルールを決めてガイドラインを制定する必要があります。
ガイドラインの基本となるのが情報セキュリティポリシーです。情報セキュリティポリシーは、全体の根幹となる「基本方針」、基本方針に基づいた施策を規定する「対策基準」、対策基準で規定された事項を具体的に示した「実施内容」の3つから成り立っています。基本方針はオフィスワーク/テレワーク双方を想定したものとなり、対策基準や実施内容については、テレワークを想定した内容を策定する必要があります。
基本方針・対策基準・実施内容についての詳細は、『テレワークセキュリティガイドライン 第4版』(PDF)のP22以降に記載がありますのでそちらを参照ください。
2. 「人」の管理・教育を行いましょう
企業のセキュリティに関する事故の事例を見るに、「人」の管理が一番難しい部分であり、さらに事故の主たる原因も「人」です。テレワークで生じる主なリスクと対策を挙げます。
端末の紛失や盗難
外出先での置き忘れや、離席中の盗難などが該当します。機密性の求められる情報はクラウド上に集約し、端末上に残さないルールづくりが重要です。また管理者は台帳を整備し、全端末の所在と利用者を管理しましょう。
盗聴やのぞき見
第三者と空間を共有する環境でのテレワーク作業で生じるリスクです。会議や電話は人のいない環境へ移動して行うことを徹底してください。また、固有名詞を口にしない意識づけも必要です。
のぞき見に関しては、自分の背中が壁になっている場所で作業をする、のぞき見防止フィルターを利用する、スクリーンセーバーを設定するなどの解決策があります。
テレワーク向けの情報セキュリティ/コンプライアンス研修の実施
テレワーク用に内容をアップデートした、情報セキュリティ研修やコンプライアンス研修を実施しましょう。研修はオフィスワークでの業務を想定しているケースが多いのではないでしょうか。社内での知見が少ない場合は、必要に応じて外部から講師を招聘したりeラーニングのコンテンツを購入したりなどの手段も検討してください。
3. 「技術」を活用したセキュアな環境を構築しましょう
セキュアな環境の構築はもっとも時間とコストがかかり、企業にとってはハードルの高い部分でしょう。しかし、人的ミスやサイバー攻撃による情報漏えいのリスクを考えれば切っても切り離せない部分です。セキュアな環境構築には多岐にわたる方法が想定されるため、今回は比較的導入しやすい施策を解説します。
クラウド化
クラウドを導入することで「情報を端末に残さない環境」を構築できます。例えば、マイクロソフト社が提供するMicrosoft 365(旧Office 365)は、オフィスワークで多用するWordやExcel、PowerPointなどのドキュメントをクラウド上で管理・共同編集できるほか、メールソフトであるOutlookもデータをクラウド上に保存するため、情報漏えいのリスクが低減されます。
同様のサービスをGoogle社も導入しており、G Suiteによって電子メールやドキュメントをクラウド上で管理する企業も少なくありません。自社でクラウドサーバを用意するのは非常に手間なので、こうした既存サービスを利用するのも手でしょう。
二段階認証などの認証強化
クラウドサービスへのログインや端末を立ち上げる際などに、二段階認証を有効化するのも効果的です。二段階認証がないとログイン時の障壁がパスワードのみと脆弱になり、キーロガーなどのツールを悪用することで容易に突破されてしまいます。クラウドサービスの二段階認証は各社で用意されていますが、端末認証用に二段階認証のシステムを提供する企業もありますので、導入を検討してもよいでしょう。
なおこれらの対策にはコストがある程度かかることが予想されます。この点に関しては国から助成を受けられるかもしれませんので、助成金の動きをチェックしておいてください。
例えば以下のサイトでは、助成金に関する情報が紹介されています。
例えば以下のサイトでは、助成金に関する情報が紹介されています。
VPN(Virtual Private Network)の導入
テレワークの情報セキュリティでは、VPNがしばしば言及されます。
簡単に説明すると、VPNは公衆回線を組織の専用回線のように利用できるというものです。VPNを用いてネットワークを暗号化することで、第三者の侵入を未然に防止できます。
より詳しい情報はテレワーク総合ポータルサイト(厚生労働省)のサイト「テレワークの情報セキュリティの中で出てくるVPNとは何ですか?」などを参考に検討ください。
業務フローにおける課題と解決策
テレワークにおける2つ目の課題は、業務フローです。具体的には、勤怠や労務管理、押印などのアナログ業務がテレワークでは難しくなるほか、稟議や決済業務の遅延、商談機会の消失なども挙げられます。
業務フローにおける課題の多くは情報共有ツールによって解決できます。
詳しくは以下の記事をご参照ください。
コミュニケーション不足の課題と解決策
3つ目の課題はコミュニケーション不足です。テキストやビデオチャットツールなどのICTツールを活用しても、対面で話す機会がなくなることからコミュニケーション上の不安を訴える人は少なくないようです。解決策としては、オンラインでお互いがコミュニケーションする機会を多岐にわたり提供することがポイントとなります。
あらかじめ自己開示する
コミュニケーションをするにも、あまり知らないメンバー同士だと最初はぎくしゃくするかもしれません。あらかじめ自己紹介のメモを作っておき、共有しておくといいでしょう。ある程度人となりを把握できますし、コミュニケーションの取っ掛かりにもなります。
参考→利用シーン – 自己紹介
顔の見えるコミュニケーションを行う
テキストチャットツールだけで相手の状態を完全に把握するのは難しいため、ビデオチャットツールも積極的に活用しましょう。まずは業務開始と終了時にオンラインミーティングを行うことから始めてみてはいかがでしょうか。また、複雑な業務指示を行う際もテキストで投げっぱなしにするのではなく顔を合わせたほうがベターです。
雑談の許可
別の空間で作業をしていると、連絡が業務で必要な指示や報連相に偏りがちです。オンとオフの区別をうまくつけながら、社員同士が気軽に雑談のできる環境づくりも工夫してみてください。例えば、Slackで雑談専用チャンネルを設けたり、昼休みやコーヒータイムにビデオチャットの利用を開放したりなどが挙げられます。
1on1で状況の把握を
マネジメント層にとっては、これまで目視で確認できていた部下の状況が把握できなくなることに懸念や恐れを抱きやすく、また部下はテレワークで孤立感を抱えてしまい、社員がテレワークに対して否定的になることもあります。
そういった意見がテレワークの導入を妨げる要因になりますので、マネジメント層/部下それぞれの懸念事項を解消するためにオンラインの1on1ミーティングを定期的に設けてもよいでしょう。
「オフィスワークのほうが優れている」という課題と解決策
テレワークに反対する意見に多いのが、「オフィスワークのほうが○○の点において優れている(のでテレワークを導入すべきではない)」というものです。
誤解を招きやすいのですが、オフィスワークとテレワークは対立構造に位置するものではなく、多様な働き方を実現する選択肢としてテレワークが存在するということです。オフィスワークにはオフィスワークの利点があり、テレワークにはテレワークの利点があるといえます。
働き方改革を実施する真の目的は企業利益を向上させるためであり、働き方はその手段でしかありません。オフィスワークの完全な代替としてテレワークがあるわけではなく、企業の柔軟な労働環境を実現するための施策の一つとして、テレワークも選択できるということです。
もし「オフィスワーク VS テレワーク」という考え方が社内に根づいてしまっている場合は、企業がテレワークを導入する意義について、マインドセットを軌道修正する必要があります。きっかけとして他社事例を参考にテレワークに対する知見を深めていくことができるでしょう。総務省のテレワーク総合情報サイトでは、業種・導入目的・人数などで調べられるテレワーク活用事例の検索ページが提供されています。
まとめ
テレワーク導入における課題は4つ挙げられ、それぞれに対策があります。
- 「情報セキュリティ」に対しては「ルール」「人」「技術」で解決
- 「業務フロー」に対しては「情報共有(ICT)ツール」で解決
- 「コミュニケーション」に対しては「コミュニケーションの機会を増やす工夫」で解決
- 「テレワークはオフィスワークに劣る」という認識に対しては「マインドセット」で解決
テレワークは今後も広がっていくことが予想されます。これからテレワークを導入する企業は、インターネットなどで前例が参照しやすく、導入のハードルも下がっている状況であるといえます。
課題となるポイントを押さえつつ、事前に打ち手を考えながら導入を進めていくことが肝要です。