社員視点で知っておきたいテレワーク導入のメリットと懸念点
テレワークを導入する際にどのようなメリットや懸念点があるのか知っておきたい方も多いでしょう。この記事では、社員視点でのメリットと懸念点を説明します。懸念点についてはその対策もご紹介します。
目次
社員から見たテレワークの3つのメリット
テレワークのメリットは「ワークライフバランスの向上」「生産性向上」「仕事への満足度向上」の3つが挙げられます。
メリット1:ワークライフバランスの向上
総務省の『平成30年版情報通信白書』に掲載されているデータ「テレワークの導入目的(企業)」では、企業がテレワークを導入する目的において「移動時間の短縮」(54.1%)や「ゆとりと健康的な生活の実現」(23.7%)といった点に期待がもたれています。これはテレワークが、社員のワークライフバランスの向上につながる施策であると言えるでしょう。
データ:「テレワークの導入目的(企業)」(※出典1)
(以下「顧客満足度の向上(19.1%)」「優秀な人材の雇用確保(16.1%)」「オフィスコストの削減(8.7%)」「交通代替によるCO2削減等地球温暖化対策(1.5%)」「省エネルギー、節電対策のため(0.7%)」と続く)
- 勤務者の移動時間の短縮 54.1%
- 労働生産性の向上 50.1%
- 勤務者にゆとりと健康的な生活の実現 23.7%
- 通勤弱者への対応 22.5%
- 非常時の事業継続に備えて 21.4%
加えて、同白書に掲載されている別のデータ「テレワークを利用する/したいと考える理由」でも「通勤・移動時間の削減」をはじめとして、「自由に使える時間の増加」「家族との時間の増加」「育児・子育てと仕事の両立」といった項目が挙げられており、社員側もワークライフバランス向上を期待しています。
データ:「テレワークを利用する/したいと考える理由」(※出典2)
(以下「介護と仕事の両立(10.7%)」「自身の病気や怪我により通勤が困難(15.9%)」「会社が推奨しているから(2.6%)」「仕事環境を変えてみたいから(14.1%)」と続く)
- 通勤時間・移動時間の削減 71.5%
- 自由に使える時間の増加 68.1%
- 業務の効率(生産性の向上) 39.6%
- 家族との時間の増加 33.7%
- 育児・子育てと仕事の両立 27.0%
また人によっては、テレワークによって住まう地域の制限から解放され、都市郊外や地方(UターンやIターン)など自身のライフスタイルの指向に合わせた住まいの選択が可能になる点もメリットとなるでしょう。
メリット2:生産性の向上
前述のデータにおいて、ワークライフバランスの次に多いのが生産性向上です。「テレワークの導入目的(企業)」では、「労働生産性の向上」50.1%、「テレワークを利用する/したいと考える理由」では、「業務の効率(生産性)の向上」39.6%と高い数値が見られます。
同白書に掲載されているデータ「労働生産性向上目的でテレワークを導入した企業による効果の認識」で、実際にテレワークを導入した企業の回答を見てみると、生産性向上に効果があったとする答えが大半を占めています。
データ:労働生産性向上目的でテレワークを導入した企業による効果の認識(※出典3)
- 非常に効果があった 28.5%
- ある程度効果があった 53.6%
- 効果はよく分からない 13.4%
- 無回答 2.8%
- あまり効果がなかった 1.7%
- マイナスの効果であった 0%
メリット3:仕事への満足度向上
前述した「ワークライフバランスの向上」や「生産性の向上」によって、仕事そのものに対する満足度の向上へもつながっていきます。満足度の高い社員が増えれば、それだけ企業カルチャーがより良い形で醸成されていくことも期待できるでしょう。
社員から見たテレワークの懸念点
続いてテレワークの懸念点について説明します。懸念点の対策については次の章でご紹介します。
同白書では、「テレワーク実施の課題」に関するデータも掲載されています。「会社ルールの未整備」「社会的な環境の未整備」「上司・同僚の無理解」「セキュリティの問題」「孤立感」が課題として挙がっています。
データ:テレワーク実施の課題(※出典4)
(以下「テレワークの費用が高い(13,4%)」「家族が嫌がる(4.3%)」「その他(1.7%)」「課題と感じるものは特にない(12.9)」と続く)
- 会社のルールが整備されていない 49.6%
- テレワークの環境が社会的に整備されていない 46.1%
- 上司が理解しない 28.0%
- セキュリティの問題がある 24.6%
- 他の従業員から孤立している感じがする 15.5%
- 同僚が理解しない 15.5%
デメリット1:会社のルールが整備されていない
テレワーク導入にあたって、会社にそもそもルールがない場合です。会社の就業規則にテレワーク勤務に関する規定がなければ、実施が思うように進まないでしょう。テレワーク導入時には、就業規則などのルールづくりが必要となります。テレワークに関する就業規定が曖昧な状態で導入すると、勤務時間とプライベートの切り分けがうまくなされず、長時間時労働につながってしまう可能性も見過ごせません。
また、自宅でのテレワーク環境の整備も必要です。PCやタブレット端末、インターネット回線を会社が提供する施策も必要になる可能性があります。
デメリット2:テレワーク環境が社会的に不十分
自宅が利用できないとしても、サテライトオフィスが利用できる環境にないなど、テレワークに必要な環境が社会的に不足しているケースです。自宅が仕事をしやすい環境となっていなければ、サテライトオフィスやシェアオフィス、コワーキングスペースなど社会的な環境も考える必要があります。
デメリット3:セキュリティ上の問題がある
インターネット環境を介する以上はセキュリティ対策が欠かせません。会社組織としてその対策が不十分な場合、会社や社員がセキュリティリスクに晒される危険性があります。前述したルールや環境の未整備を発端にセキュリティリスクが高まり、情報漏えいインシデントが発生してしまう可能性も考えられます。
デメリット4:孤立感を抱えてしまう
何気ない雑談も含めて対面コミュニケーションが減るので、テレワークしている社員は孤独や不安を感じやすくなります。テレビ会議やチャットツールといったICTツールを上手に活用していくことが大切です。
デメリット5:上司・同僚の理解を得られない
「対面でコミュニケーションができないので部下の業務管理ができなくなってしまうのではないか」、「業務フローが変わるので効率が下がってしまうのではないか」など、テレワークの働き方に不安が先行して上司や同僚から理解を得られないケースです。テレワークへの理解を促進していくためには、権限があるトップマネジメントに働きかけて、プロジェクトとしてテレワークを推進していくことも考えられます。
デメリット6:マイナス効果もありえる
なお上記に加えて気になる点としては、若干のマイナス効果も考慮する必要があります。厚労省の「平成29年度 テレワーク人口実態調査結果-調査結果の概要-(P.16)」では、全体の5%未満と小さい割合ですが、「仕事時間(残業時間)が増えた」「業務効率が下がった」「職場に出勤している人に迷惑をかけた」などのマイナス効果が挙げられています。こうした小さな不満や不安が出てくる点に留意し、会社や社員が継続してテレワークに取り組み、より良いテレワークの環境づくりを目指していくことが大切でしょう。
テレワークの懸念点への対応策
最後に懸念点への対応策をご紹介します。
「会社のルールが整備されてない」への対応策
総務省「テレワーク導入手順書」によれば、テレワークに関するルールの整備に関しては、以下の2点が参考になります。
1つ目は、情報セキュリティポリシーの策定です。テレワークでも出社勤務でも、会社で統一した情報セキュリティに関する方針が必要となります。2つ目は労務管理のルールです。テレワーク勤務に関しての就業規則の規定としては、「在宅勤務を命じることに関する規程」「在宅勤務用の労働時間を設ける場合、その労働時間に関する規程」「通信費等の負担に関する規程」を盛り込む必要があります。同手順書では、実際の策定事例も掲載されているので参考にしてみてください。
「テレワーク環境が不十分」への対応策
テレワークを実施するにあって、働く環境は会社が準備する必要があります。自宅でのテレワークが難しい場合は、サテライトオフィスやシェアオフィス、コワーキングスペースなどを会社が用意する必要があります。
また、社員が利用するPC環境については、主に4つの形式があります。
1つ目は、リモートデスクトップ方式です。オフィス設置PCに対して、遠隔で別のPCで閲覧や操作をするシステムです。2つ目に、仮想デスクトップ方式があります。仮想デスクトップはサーバのリソースを使うため、マシンパワーを使うものには不向きとなります。3つ目は、クラウド型アプリ方式です。Web上からクラウド型アプリにアクセスする形となります。必要なアプリがクラウドサーバ上にあるのが特徴です。4つ目に、会社PCの持ち帰り方式です。オフィスPCを持ち出してVPN経由で使う形式です。情報漏えい等に対して十分セキュリティ確保をして、私的利用の制限をかけておく必要があります。
「セキュリティ上の問題がある」への対応策
総務省「テレワークセキュリティガイドライン」では、セキュリティ対策として、ルール、人、技術という3つが重要と指摘されています。ルールを定め、社員等テレワーク勤務者がルールを遵守していく体制や仕組みづくりが必要となります。インターネット上の脅威としては、ウイルス・ワーム等の感染、テレワーク端末や記録媒体の紛失や盗難、通信内容が盗聴されるなどが挙げられます。
こういったセキュリティ脅威に対しては、ウイルス対策ソフトの導入、作業環境のリスク認知、暗号化した上でのファイル送受信、ファイヤウォール等の設置が挙げられます。これらは、あくまで技術的な観点なので、人(社員)がセキュリティ対策を学び、セキュリティのルールを遵守するのが重要と言えるでしょう。
「孤立感を抱えてしまう」への対応策
孤立感を解消するためには、ビジネスICTツールが有効と考えられます。同白書のデータ「テレワーカーのコミュニケーション確保のための対策」では、対策のためのビジネスICTツールとして、ビデオ会議システム、チャット、勤怠管理システムなどが挙げられています。
データ:「テレワーカーのコミュニケーション確保のための対策」/ビジネスICTツール(※出典5)
- ビデオ会議システムの導入 49.0%
- チャットの導入 39.6%
- パソコン稼働状況とリンクした勤務管理システムの導入 29.2%
- バーチャルオフィス(互いの仕事風景がリアルタイム等で確認できる環境)の導入 27.1%
- 画面モニタリングシステムの導入 17.7%
ビジネスICT以外での対策も同データに掲載されており、サテライトオフィスやコワーキングスペースの活用、テレワーカーへのフォローアップ制度導入などが挙げられています。
データ:「テレワーカーのコミュニケーション確保のための対策」/ビジネスICTツール以外の対策(※出典5)
- 自社によるサテライトオフィスの整備 24.0%
- テレワーカーに対する相談・フォローアップ制度 19.8%
- 別会社が提供するコワーキングスペースの利用補助 3.1%
- その他 0.0%
- 特に導入していない 12.5%
こうした対策は組み合わせて実施するのが効果的です。例えば普段はビジネスICTツールを用いてコミュニケーションをしながら、対面で仕事をした方が良いブレストなどのケースでは、メンバーと顔を合わせたサテライトオフィスを使うといった方法が考えられます。状況に合わせてコミュニケーション方法を柔軟に選ぶことが、コミュニケーション不足の解消につながります。
「上司・同僚の理解が得られない」への対応策
上司や同僚の理解がない場合は、より権限があるトップマネジメントに働きかけて、プロジェクトとしてテレワーク導入を推進することも考えられます。プロジェクトチームは、先行事例調査や社内ルールの整備などさまざまな具体的作業が発生するので、部署を横断したメンバーで役割を分担して行います。直属の上司をはじめとしたミドルマネジメント、経営者、社員に対してテレワーク導入のメリットがあることを訴えかけていくことで、会社でのテレワーク導入が推進されることを狙います。
まとめ
テレワークにおける社員視点でのメリット、懸念点、その対応策について、以下に簡単にまとめます。
- 社員にもたらされるテレワークのメリットは「ワークライフバランスの向上」「生産性向上」「仕事への満足度向上」の3つが挙げられます。
- 懸念点としては、「会社ルールの未整備」「社会的な環境の未整備」「上司・同僚の無理解」「セキュリティの問題」「孤立感」などが挙がっています。
- 上記の懸念点については、「ICTツール活用」「テレワーク向けに就業規則規定をアップデート」「全社的なプロジェクトとしてテレワークを推進」といった施策で解消することが可能です。
社員にとって実りあるテレワークとするために、メリットや懸念点、対応策を把握して、導入・普及に努めていきましょう。
出典一覧
※出典1:『平成30年版情報通信白書』(総務省)/図表4-4-3-6 テレワークの導入目的(企業)
※出典2:『平成30年版情報通信白書』(総務省)/図表4-4-3-8 テレワークを利用する/したいと考える理由(複数回答)
※出典3:『平成30年版情報通信白書』(総務省)/図表4-4-3-7 労働生産性向上目的でテレワークを導入した企業による効果の認識
※出典4:『平成30年版情報通信白書』(総務省)/図表4-4-3-9 テレワーク実施の課題(複数回答、テレワーク実施希望者)
※出典5:『平成30年版情報通信白書』(総務省)/図表4-4-3-10 テレワーカーのコミュニケーション確保のための対策(複数回答、企業)